更新:2025/07/05
超電導状態のネオジウム磁石を浮かす?
7月2日、飯田市内の追手町小学校で「おもしろ科学工房」の出張授業があったようです。行事を伝える新聞記を読んで感じたことです。
『南信州』7月4日の10面 "科学の楽しさ体験 追手町小で実験教室" という記事は、「超伝導体の原理を体験する実験では、強力なネオジウム磁石を冷やし、磁石が浮かぶ姿を眺めた」と書いてるんですが、ちょっと変だと思いませんか?
Yutubeの松川町名子おもしろ科学教室20120122は「おもしろ科学工房」が下伊那郡松川町で行った出張実験を町のケーブルテレビがニュースとして流したものの一部。動画で見えている実験の様子について、アナウンスはほぼ正しい説明をしています。「電気を通しやすい物質を液体窒素で冷やすとさらに電気を通りやすくなり超電導となります…」という解説は、「ある種類の物質を液体窒素で冷やすと超電導状態になります…」と訂正すべきですが、「その物質をネオジウム磁石という磁力が強い磁石を敷き詰めたレールの上にのせると、わずかに浮いた状態でレールの上を走ります」といってますから、ネオジウム磁石を冷やすようなことはしていないことは想像できるでしょう。あんな大きなものを冷やすことはちょっと無理です。
さて、2024年7月にも、『南信州』さんは同じような授業について、「液体窒素で強力なネオジウム磁石が浮き上がる様子を観察した」と書いています。論外かな…
2023年7月も大手町小の話で、『南信州』さんは、「強力なネオジウム磁石を液体窒素で冷やして超伝導体を作り、磁石が浮かぶ様子を観察」。
2021年11月には、『南信州』さん、は松尾小の行事で、「強力なネオジウム磁石を液体窒素で冷やして超伝導体を作り、磁石が浮かぶ様子を観察した」。さらに、「液体窒素で冷却されたネオジウム磁石が浮上する実験では、子どもから大人までが不思議そうな表情を浮かべ、見入っていた」と、それがほんとなら、そりゃ不思議です。
こちらは『信毎』さんの同じ行事についての記事(2019年11月)。「直径約2センチの金属を氷点下196度の液体窒素で冷やし、電気抵抗をなくした物体『超電導体』に変化させた。強い磁気を帯びる性質を利用して別の磁石と反発させ合い、リニア新幹線がレール上を動く仕組みを再現した。」とこの説明も変です。
『信毎』さんは「約2センチの金属」と書いてますが、実験で使っている、液体窒素で超電導状態になる物質は瀬戸物(セラミック)です。また「反発力」じゃなく、この場合は超電導状態の物質がもつ、マイスナー効果とピン止め効果が働いているからです。磁石の反発力同士ではレールに沿って動くことはなく、すぐにレールからそれてしまい、吸引力の働く向きになってレールとひっついてしまうはずですが、それがレールに沿って動くのはなぜなんだろうかと考えるべきですね。小中学校の理科の範囲の知識、磁石の同極同士を向かい合わせたときどうなるか、それとは違う現象が目の前で起きていると気が付けば、実験者に聞いて、もう少しきちんとしたことがかけるんじゃないかと思います。
2018年11月は松尾小学校の行事。『南信州』さんは、「超電導体についての実験では、児童たちは液体窒素で強力なネオジウム磁石を冷やして超電導体を作り、磁石が浮き上がる様子を観察…」。
2015年って10年前!の7月、『南信州』さんが、松尾小の出張授業について「子どもたちは液体窒素で強力なネオジウム磁石を冷やして超伝導体を作り、磁石が浮かび上がる様子を観察していた。」。
『南信州』さんの書き方からはなにか信念のようなものをかんじるのですが…。
で、『信毎』2025年7月4日(25面)の記事、"理科の実用性 認識低い日本 「社会に出たら必要ない」最多45% 日米中韓の高校生調査"。学校で学んだ理科の知識は実用性がないと考えている高校生が多いそうです。
小中学校の理科の知識があれば、超電導リニアがかなり無理筋の技術だろうという見当はつくと思うのですが、新聞記者さんも社会にでたら理科は必要ないと思っているのでしょうか。そして、目の前で起きていることをきちんと把握したり、つまりよく観察するということも必要ない、と考えているのかも知れません。それで通るなら世の中はらくちんらくちん。
困ったことだ。
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