更新:2019/11/27、補足 2019/12/01

ノンキなサイエンスショー

 11月22日に、飯田市内の鼎中学校と鼎小学校の生徒を対象に、体験型の合同講演会「液体窒素を使ったサイエンスショーとリニア新幹線の原理について」がありました。主催は、鼎小中学校のPTAと公民館で、飯田市のリニア推進室も説明をしたようです。

 『信毎』23日の記事は、直径約2センチの金属を氷点下196度の液体窒素で冷やし、電気抵抗をなくした物体「超電導体」に変化させた。強い磁気を帯びる性質を利用して別の磁石と反発させ合い、リニア新幹線がレール上を動く仕組みを再現した。 と書いています。

 この記事が書いているのは、実は、ある種のセラミック片を液体窒素で冷やして「超電導状態」に変化させて、その上に磁石を置くと浮き上がるという実験です(上下を入れ替えても同じ ⇒ 超電導コースター)。これは、「ピン留め効果」とか「マイスナー効果」といった言葉で説明される現象(*)で、超電導リニアの浮上原理とは全く関係ありません。

* この現象の説明は結構難しいようです( ⇒ 超伝導体による永久磁石の浮上)。しかし、ともかく超電導リニアの浮上原理は全く違う理屈です。

 このサイトでは、これまでに、何度かこの実験をリニアモータカーの説明との関連で取り上げるのは不適切と指摘してきました。「南信州飯田おもしろ科学工房」の同様のサイエンスショーも見たことがあります。この実験は「超電導」を「浮上」に結び付けて、不思議さを強調するもので、超電導リニアの走行の仕組みについて正しく理解する妨げになると思います。現に、記事によれば、中3の生徒は、「重い新幹線の車体を浮かせるほど磁石の力は強いと分かった」とほとんど脈絡なく誤解しているではないですか。リニア新幹線より重いトランスラピッドは常電導、もっと弱い普通の電磁石の力で浮いています。

 『南信州』27日は、液体窒素で冷却されたネオジウム磁石が浮上する実験では、子どもから大人までが不思議そうな表情を浮かべ、見入っていた。 と書いています。

 冷やすのはある種のセラミックでネオジウム磁石じゃありません。『信毎』も『南信州』も困ったもんです。ただし、浮上する実験では、子どもから大人までが不思議そうな表情を浮かべ、見入っていた。 というのは、このサイエンスショーの結果として詐欺的な性質を的確に表現していると思います。この実験を見せることで、超電導技術は不思議で素晴らしいという印象を与えがちなのです。

 サイエンスショーの三浦さんが模型でリニアの仕組みを説明したと書いているので、多分、『南信州』の記者さんは、『信毎』さんと違って、リニアの浮上の本当の仕組みを理解しているようです。この講演会でも、三浦さんは、いつも言っているように、冷やした超電導物質が磁石の上に浮かぶ理屈は、リニアの浮く原理とは違うと説明はしたのでしょう。

 しかし『信毎』さんは、これがそのまま浮かぶ原理と勘違いしている。『信毎』さんは、強い磁気を帯びる性質を利用して別の磁石と反発させ合い、リニア新幹線がレール上を動く仕組みと書いているんですが、これでは磁石と磁石の間の反発力で浮上することになってしまいます。磁石を軌道上にたくさん並べるのはコストがかかるので、代わりにループコイルを並べて超電導磁石の運動による誘導作用でループコイルに生じる磁界との反発力を利用するというのが超電導磁気浮上方式の原理です。

 JR東海さんがやっている「リニア鉄道館」の超電導リニアのコーナーでは、超電導そのものについては、温度が下がると抵抗値がゼロになる物質があるという簡単な説明しかありません。超電導の不思議な現象、「ピン留め効果」とか「マイスナー効果」についての解説は何もありません。「リニア鉄道館」のホームページで配布している教材、「リニア中央新幹線を学ぼう」も同様です。おそらく出張授業でも、「ピン留め効果」の実験なんかはしないはずです(以前、「リニア鉄道館」に電話して液体窒素を使った実験を出張授業でするか聞いたら、しないとの回答だったと記憶しています = 2019/12/02 補足)。

 記者さんは、リニアについてもう少し勉強されておれば、こういう行事は印象操作になりかねないと問題点が指摘できたはずです。自分がひっかかってちゃ困ります。

 PTAも公民館も一緒になってこんな行事をやるなんて、もうリニア計画に赤信号が点いているというのにノンキな話です。

関連ページ

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「リニア鉄道館」のリニアの浮上原理を説明する実験装置。車体側面(8の字型のコイルの向こう側)に永久磁石(多分ネオジウム磁石)が付いています。リニアの模型の反対側にオモリを付けて、ごくわずかの力で浮くように工夫している。

 「リニア鉄道館」のこの実験装置(上の写真)を見れば分かるように、電磁誘導で実物を浮き上がらせるには大変に強力な磁石でないと無理です。だから、超電導磁石を使うのです。つまり、誘導反発方式を実用化するには超電導磁石が必要。しかし、リニアの誘導反発方式の仕組みは、この実験装置のように普通の磁石でも再現できるのです。

補足 2019/12/02:超電導現象で利用しているのは、抵抗値がゼロになることだけです。1989年のテレビ番組「鈴木健二の体験タイムトンネル 〜陸蒸気から2000年リニアエクスプレスまで〜」の中(54分~)で「リニアの生みの親」と呼ばれる京谷好泰さんは、冷やすと超電導物質の抵抗値が下がる実験をして見せています。そして、抵抗値がゼロになれば、電磁石に非常に大きな電流を長期間にわたって流し続けることができると説明しています。つまり、非常に強力な永久磁石と同じようなものが実現できるという意味です。超電導現象に関しては「リニア鉄道館」の説明範囲と同じです。(関連ページ ⇒ リニアの開業時期、もともとは2000年)
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補足:ピン止め効果の実験の動画ほか

 超電導リニアは「反発力」を利用しているはず。この動画で、最初のうちは「反発力」で浮いているように見えますが、後半では手で磁石を持ち上げると超電導物質が一緒に持ち上がってきます。働いているのは反発力じゃありません。リニアの浮上原理とは全く違うことがわかります。「南信州飯田おもしろ科学工房」が鼎中学校でここまでやったかどうかは分かりませんが…。(『信毎』の記事の写真説明は、磁気を帯びた黒い超電導体と磁石を反発させあう実験 なので、記者さんはこの現象を完全に誤解しています。)

 (1)は、「ピン止め効果」について簡単に説明しながら実験をしています。

 (2)、(3)は「南信州飯田おもしろ科学工房」がサイエンスショーで使っている超電導コースター。コースの途中にひねりが入れてあるので、単純に反発力だけで浮いているわけでないことがわるはずです。しかし、私が以前見たサイエンスショーでは(1)のような「ピン止め効果」について説明をしていませんでした。

 この「ピン止め効果」だけでも、子どもに説明するには、相当に時間がいるはず。超低温のいろいろな現象をほとんど見せる中の一つとして見せて、話をさらにリニア新幹線にまで広げるのは乱暴すぎると思います。結局、「超電導」即「浮上」という印象に結びつけることになって、超電導リニアの技術への批判的な視点を無くする効果があるといえます。

 オウム真理教の教祖は写真のトリックを使った空中浮揚を見せて、修行を積んだ教祖には超能力があるように見せました。リニア新幹線関連で行われるこの手のサイエンスショーはオウム真理教が行った印象操作と良く似たところがあります。非常に危険な事です。

動画の追加 (2019/12/02)

 山梨県立リニア見学センターの実験の動画。この説明者は「ピン止め効果」と説明しています。超電導リニアの場合でも冷やし続ける事が重要と言っています。前後がないので、リニアの浮上原理との関連についてどう説明したかは分かりませんが…。ともかく、撮影者は、「ピン止め効果」と説明している部分から切りとっています。

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浮いています。何にも引っ張りもないんだけど浮いている。これが超伝導体なんです。はい。超伝導体というのは、こういった特質があります。今日はみなさんに一番見ていただくのに分かりやすい「ピン止め効果」という効果をご覧いただいています。この磁力の強いネオジウム磁石のこの磁力が上にあがってますね、この磁力をこの中の超電導体が方向とかそれから大きさとかすべて感じ取って、いまちょっと周りの熱を吸収して動いたりしてますけれども、この磁力の上に留まろうとする力が働いています。はい、反発力ではないんですね。このネオジウム磁石の磁力を感じてここに留まろうとする「ピン止め効果」っていう効果が今現れているんです。実際走っているリニアも超電導状態を保つためにはニオブチタン合金の超電導コイルをマイナス269度に冷やしております。常に冷やし続けております。これ、冷やし続けていないとどうなるか、すぐに現れますから、見ててください。リニアはずーっと500キロで走行しなければなりませんので、この窒素だけではマイナス196度までしか冷えないので、液体ヘリウムというものを使ってマイナス269度に冷やしております。はーい、ちょっとまだまだ冷たいんですよ。でも、もうこの温度では超電導状態を保てません。それで落ちてしまったんですね。この状態になってしまったということです。冷やし続けないと超電導状態を保てないということを、みなさん覚えて帰って下さい。そうしたらコースターの上を走らせてみまーす。

 「冷やし続けていないとどうなるか」という実際のリニアとの共通点を示して、なにか微妙にきわどい説明に思えます。写真の一コマ一コマは事実を写しているんですが、いくつかのコマを並べ、説明と組み合わせることで実際の事実とは違う内容を伝える事も出来ます。目の前で見せる実演でも、説明を上手く組み合わせれば事実と違った印象を与えることはできるはずです。つまり、「騙された方が悪い」と片付ければ良いこと。そのあたり、変にまじめなJR東海自身は「リニア鉄道館」で超電導について必要にして十分な範囲でしか説明しかしていないのに、山梨県の施設が、随分とお金をかけた実験装置を使ってまで、印象操作というべき、きわどい説明をするって、提灯持ちどころか、なんか、何をやっているのか不思議な感じがします。「南信州飯田おもしろ科学工房」や飯田市の鼎公民館や鼎小中学校PTAも同じですね。