更新:2018/03/04

リニアの揺れ、冷泉彰彦氏のみたて

 『鉄道ジャーナル』2018年4月号に鉄道ファンでもある冷泉彰彦氏の記事「実用化技術はすでに確立 超電導リニア 乗車体験でシミュレーション」という記事がのっていました。リニアについては体験乗車をした人の中に揺れについて、ちょっとねみたいな感想を言っている人が少なからずいます。冷泉さんもやはり気になったようです(p88~89)。彼は2017年の10月に試乗したそうです。

 一方で、振動ということでは700系、N700系というよりは300系の感覚に近い。抑え込まれているけれども加速にしたがって振動はハッキリと感じられる。鉄軌道の新幹線の場合、そこからセミアクティブあるいはアクティブ・サスペンションなどを開発して改善して行ったのであるが、リニアの場合はそうした手法は使えない。電磁的に左右動の逆相をかけるというのも、左右の「案内」については基本的に固定であるので構造上不可能だ()。可能性としては、車体とガイドウェイの間で発生する微細な乱気流を抑制することで、振動を軽減できるのだろうが、そのためには車体を鏡面のように磨き上げるとか、それこそ車体と台車の継ぎ目をカバーしているフェアリングを見直すなど細かな対策を積み上げるしかないのだろう。
 ガイドウェイに関しては、・・・問題はコイル間の継ぎ目や電線の露出部分だろうが、ここでさらなる乱気流対策をするとなれば、メンテナンスが複雑になるだろう。もちろんコツコツと対策を積み上げていくことになるのだろうが、現在300系レベルの乗り心地を、例えばN700系レベルにまで持って行くのは、そう簡単ではないに違いない。

※:リンクしたページの中頃。千葉大学近藤圭一郎教授は、"車両を浮かせようとする電磁力と、車両を沈めようとする重力が自然にバランスする点で浮上高さ(ギャップ)が決まる。・・・この方式では、バランス点からずれると元に戻そうとする復元力が生じることが特徴である。すなわち、特に制御など行わずとも、ギャップの長さに関しては元から安定なシステムである。しかし、逆に言うと、積極的にギャップを制御することはできないため、浮上系の設計段階で、例えばバランス点から何cmずれるとどの程度の復元力が発生するといったような、磁気ばね特性を決める必要がある。・・・この磁気ばね特性を種々の要求から適切に設計すると、走行中に車両が軌道に当たらないようにするには10㎝程度のギャップが必要になると考えられる。(『鉄道ジャーナル』2017年4月号、p96 )" と説明しています。つまり、バネで支えているのと同じですから、車体に外力が働くとつり合いがとれるまで車体の位置がずれます。ずれの最大限度は鉄道総合技術研究所によれば片側4㎝です。

 冷泉さんは、台車とかサスペンションといった足回りの改良で乗り心地を良くすることは出来ないと考えているようです。だから台車付近の車体の表面処理とか、ガイドウェイ側の表面処理で空気力学的に対策をするしかないのではと言っているようです。

 冷泉さんのいう空気力学的な対策というのは、乱気流が原因で車体に揺れが起きるのを止めるには効果があるかもしれません。しかし、それ以外の理由、たとえば、カーブでの遠心力とか、またその揺れ戻し。強い横風とか地震などについてはどうしようもないということでしょう。

 ドイツの技術者たちは、超電導方式について、「すべての考えられる運転条件の下で、良好な乗り心地が得られる技術問題が解決されていない」(※)などほかの理由から、1977年には超電導方式の採用を止めました(参考)。冷泉さんが言っていることって、まさにこれじゃないでしょうか。

※ 大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』、37ページ

 また、耳ツン現象が起きることについて、JR東海は、「給気」と「排気」をする弁を開閉して車内の空気圧を調整する仕組みを開発中と、冷泉さん書いています。ということは、リニアの車体は機密構造になっていない。ともかく、冷泉さんは耳ツン現象が問題だと指摘しています。

 乗り心地の無視は、戦時中の日本の戦闘機が操縦士の命を守るという戦闘機としての大事な機能を無視したことに通じるところがあるようです。結局、りっぱな戦闘機を生産するには、大馬力のエンジンが開発できる工業技術の水準が必要だったことについての反省がなく、鉄道総合技術研究所やJR東海はリニアについて、小手先のことで解決しようと考えているようです。


補足:2018/03/06

 冷泉さんの文章を読み返してみて、彼はリニアについてちょっと問題なことを言ってるような気がしました。彼は「加速にしたがって振動はハッキリと感じられる」、「車体とガイドウェイの間で発生する微細な乱気流を抑制することで、振動を軽減できるのだろう」と言っています。ということは、カーブでの遠心力のような外部からの原因でなく車体自体が勝手に振動を起こしているということになりますね。やはり鉄道ライターの川島令三さんは「蛇行動」があったと言っています。ゼロ戦は初期に急降下の高速時に主翼が振動を起こして空中分解する事故を起こしていました。その解決法を研究した方が、戦後国鉄に入って新幹線の開発に携わっていました(松平精の零戦から新幹線まで)。列車を高速で走らせようとするとき「揺れ」の問題は乗り心地以上に、安全にかかわる問題ではないでしょうか(動画「狩勝実験線(脱線試験)の記録」。動画の最後のナレーションは、"鉄道の高速化。それは速度が生み出す複雑な振動を克服すること。世界最高の新幹線は、実に、振動と戦う技術の輝かしい成果である。" 新幹線の場合は比較的短い期間で振動の問題を解決できたのですが、リニアは開発を始めてすでに約50年です。「揺れ」の問題がいまだに解決できていないリニア。高速列車の技術として本当に安全なものにできる可能性があるのか大変疑問です。)。