更新:2020/12/26

豊丘村本山の残土置き場の保安林指定解除の告示

 12月25日の『信毎』(2面)の記事 "残土処分計画地 保安林指定解除 豊丘村本山" によれば:

国は24日、JR東海のリニア中央新幹線トンネル工事に伴う掘削残土を搬入する下伊那郡豊丘村本山の処分計画地の保安林(9.1ヘクタール)指定を解除し、官報で告示

 また:

解除の理由は鉄道用地

 同じ25日に豊丘村にお住いのある方から、この件について、官報の内容と、回覧文書「坂島工区だより 40号」のコピーをいただきました。

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「官報 401号」(2020年12月24日)より

 『信毎』を読んで、「鉄道用地」という言い方は『信毎』が考えたのだろうと思っていたのですが、「官報」がそう書いている。

 6月9日に飯田市内で開かれた長野県森林審議会保全部会の席上、長野県林務課は解除の理由として「公益上の理由により必要が生じたとき」にあたるとしていました。

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 まず、「ア」と「イ」と「ウ」はリニア中央新幹線が「鉄道事業者」がおこなう「鉄道の建設事業」に該当するといっているだけのことです。

 問題は、「別表3」。当日、傍聴者への配布資料に「別表3」はありませんでした。「別表3」というのは県担当者によれば『保安林林地開発許可業務必携 基本法令通知編』(森林科学研究所発行)という冊子の中にあるとのことでしたが、農林水産省のページ "保安林及び保安施設地区の指定、解除等の取扱いについて" にあります。

[ 別表3 国等以外の者が実施する事業 ]

5. 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設に関する事業

 「鉄道事業で一般の需要に応ずる」という部分で、「一般の需要」という部分、言葉通りに解釈すれば、「鉄道の利用者が鉄道事業者にお金を支払って受けるサービス」のことだろうと思うのです。具体的には、軌道(線路)、駅舎、保線基地、車庫、変電所など、鉄道の日々の運行に必要な施設を設置するための土地です。

 本山の残土の埋め立て地は、リニアが完成して開業後はJR東海はリニアの運行に関連して使うことはありません。本山については、盛り土の安全性に村民が懸念を持っているので、JR東海は管理を行うために買い取る方針のようですが、リニアの運行とはまったく関係がありません。また、もともと残土処分地は工事期間中は借りて、埋め立てが完了後は地権者に返すといっていたし、そのような扱いにしたところがあります。

 また、トンネル残土は、建設材料として、道路建設や改良、公共施設用地の造成などに使えます。そういう例も実際にある。処分する先は、保安林以外の場所でも探せばないわけではない。これは、どうしてもこの場所でなければなければならないという解除の要件にもあたりません。

 長野県と林野庁はきわめてグレーな判断をしたと思います。本山の置場については、地権者であった「本山生産森林組合」の受入れの決定のやり方に、適法でない部分があったとして、長野県が、いったん受け入れの決定を白紙に戻させたといういきさつがありました。さらに、組合の運営全体に問題点があって、定められた相続手続きを設立時以降怠ったので、380人以上あった組合員が140人程度になり、受け入れ決定時の組合幹部の中に組合員資格のない人がいました。そのご組合の立て直しをはかりましたが、全ての問題が解消されたとは言えないとの声もあるようです。

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解除の告示前に工事は始まった

 12月14日の長野県が呼びかけた沿線関係市町村長とJR東海の意見交換会の席上、JR東海の宇野護副社長は、本山の残土置き場については手続きに時間がかかったけれど、現在伐採作業を始めたと報告していました。回覧文書「坂島工区だより 40号」にも工事のようすの写真が載っています。

 今から3年半以上まえの、2017年4月21日、JR東海は環境保全計画の一環だといって本山の予定地内で希少植物の移植作業を行いました。この事件については、長野県知事が当時の柘植社長との懇談のなかで注意をしています。ただし、保安林内での作業については、どんなものであっても事前に林務課に相談すべしという慣行に、JR東海が従わなかった点について注意を促したもの。環境保全の立場から言えば、まだ残土置き場として使えるかどうか分からない内に危険性の高い移植作業をおこなったという環境影響評価法の考え方を全面的に否定する重大な犯罪といえるものでした。当時は、保安林解除の申請すら出していない状況でした。

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 今回は、告示まえに、かなりはでに工事を始めていたようです。2017年のような問題があったのか、なかったのか…。回覧文書を見る限り、保安林の指定のある部分以外で工事を始めたとは書いてありません。

 そもそも、本山の受入れは地域の一部の声の大きな方たちがリニアに協力しなくてはとの一念、実は残土置き場へのダンプカーの運行のための道路改良が期待できるという裏があって、始まったこと。豊丘村内では、戸中斜坑の工事ヤード付近に東日本大震災の復興事業の資金で設置した獣害防止柵が合ったりして、要領がよいように見えて、本質を欠いているので、のちのちなにか説明がつかない、子どもにせつめいできないようなことがたまっていくような気がします。

 「リニア特区」なんてものはないのに、当地方は「リニア特区」化してきたところがあります。

 なお、坂島斜坑ヤードの写真を見ると最近は工事がほとんど進んでいないように思われます。

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回覧文書より

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5月17日撮影

(2020/12/29) 備忘1

 なお、保安林指定解除について全2件の異議意見書が出されましたが、不採用の通知の日付は、1件が11月4日、もう1件が11月7日でした。行政訴訟を提訴できる期間の基準になるので備忘のため。3か月とすれば2021年の2月初めころか。

(2020/12/30) 備忘2

 坂島斜坑工事ヤードの見取り図がJR東海による "中央新幹線伊那山地トンネル新設(坂島工区)工事における環境保全について (平成29年5月)" の28ページにありました。

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回覧文書や5月に撮影した写真に写っているのは、図中「A」と「B」を結ぶ線より左側。主なものとして、赤丸で囲んだ、バッチャープラント(生コンプラント)、ベルトコンベア、濁水処理設備ができていません。大鹿釜沢の除山斜坑ヤードは、2017年4月末頃は、坂島ヤードの5月の状況より整備が進んでいませんでした。現場に至る三正坊橋の重量制限などのあって整備に手間取ったのに、6か月後の11月1日には本格的なトンネル掘削が始まっていました。このページでわかるように生コンプラントは8月7日にはもうできていました。本山の残土置場が決まっていなかったからとは言えないでしょう。きまっていなくても工事は認可されているんです。豪雨の影響もあったとは思いますが、中止とか凍結を宣言するつもりがあったからではないかと疑いたくなりますね。