更新:2021/07/05

ワシントンDC・ボルチモア間のリニア計画について(2)

 ワシントンDC・ボルチモア間のリニア計画のこれまでの経緯について簡単にまとめた文章を見つけました。

北東回廊は、インフラの劣化や線路容量 の不足など深刻な課題に直面しているため、連邦政府も積極的に取り組んでおり、連邦鉄道局は、包括的な計画・投資プログラムである「 NEC FUTURE 」を策定し、 2017 年には環境影響評価における最終手続きとなる「決定記録」にも署名して、北東回廊全体の設備の適切な修繕と近代化を実施し 、 線路容量の増加、乗り継ぎの利便性向上等によって、2040 年にかけての旅客輸送需要 に応える輸送力の増強を図るとしている。…受けて、連邦鉄道局とメリーランド州交通局は、超電導リニア路線の建設及び運行による潜在的な影響を評価すべく、 AECOM を使って国家環境政策法に基づく環境影響調査書の作成に取り組んでおり、 2021 年当初にドラフト版 DEISを作成し住民公聴会などの手続きを経たうえで 2022 年 初 頭 には最終版を取りまとめ、連邦運輸省の「決定記録」を得たうえで、早期の着工を目指すとしている。沿線には住宅地のほか連邦の施設などがあり、厳しいセキュリティーが求められるし、利用者や周辺住民への騒音、環境などの影響や工事発生土の処理などの問題の解決策を明らかにする必要がある。このプロジェクトのスポンサ(下線は引用者による)

「AECOM」は環境影響評価を行うコンサルタント企業。

 細かいことは別にして、2017 年には環境影響評価における最終手続きとなる「決定記録」にも署名して、とか 2021 年当初にドラフト版 DEISを作成し住民公聴会などの手続きを経たうえで 2022 年 初 頭 には最終版を取りまとめ、連邦運輸省の「決定記録」を得たうえで、早期の着工を目指すとしている。 といった書き方は、「もう決まったこと」で「どんどん進んでいる」といった雰囲気が感じられる書き方だと思います。

 アメリカの環境影響評価の仕組みや段取りがどうなっているのか分からないと、実はこういう文章をみても本当のところは分からないと思うのです。つまり、私はそれが分かっていないと言うことなんです。で、ネットでさがしたら、次のようなものを見つけました。

 「資料4 主要諸国における環境影響評価制度の概要」のアメリカの部分を抜き出してみました。

根拠法令(制定年)
・国家環境政策法(NEPA)(1969)
対象事業
・ 連邦政府機関の行為(連邦政府機関によって資金の供与、実施、承認等されたプロジェクト等)で、省庁毎に作成された類型除外リストに該当しないものが環境影響評価の対象となる。類型除外リストに該当する場合は環境影響評価が不要となる(詳細な環境影響評価(EIS)も、EIS の必要の有無を判断する簡易アセスメント( EA)も、ともに不要)。
・ 類型除外リストのほかに、通常直接EIS を作成する事業や、通常EAのみを作成する事業がリスト化されている省庁もある。
評価項目
・ スコーピングに基づき、個別事例ごとに評価項目が決められる。
実施主体
主導連邦政府機関
手続きのフロー
[簡易アセスで完了する場合]
・ 通常直接EIS を作成するリストに該当しない場合は、まずEA を行い、EIS 作成の必要性を判断する。
・ 重大な影響が無い場合はEIS が作成されないことを簡潔に述べた書類(FONSI)が公表される。
[EIS を作成する場合]
・ 重大な影響がある場合は、EIS を作成するプロセスに入る。まず、その旨を記した計画通知(NOI)が官報に掲載される。
・ スコーピングでは課題の範囲の決定、重要な課題の特定を行う。
・ スコーピングに基づき、主導連邦政府機関はドラフトEIS(DEIS)を作成する。DEIS について、専門機関、公衆の意見を聴取する。
・ 主導連邦政府機関は、DEIS に対する意見に基づき修正を行い、最終EIS(FEIS)を完成する。FEIS を縦覧し、行為を実施するかどうかの意思決定を行い記録を行う
・ 意思決定後のモニタリングを行う(任意)。
公衆関与
・ EA の段階(実現可能な範囲で)、FONSI の作成段階(通常EIS が作成される行為若しくは当該行為に非常に類似の行為の場合など)、スコーピング段階、DEIS の段階、FEIS の段階などで行われる。
・ 連邦政府機関は、関心があるかまたは影響を被る可能性のある個人、機関に情報を提供するために公聴会、説明会、関連文書の入手先を一般に公表しなければならない。
SEA 導入状況
○(EIA と同一法(※)による)※アメリカの国家環境政策法(NEPA)では、政策、法案、プラン、プログラムに適用される環境影響評価をプログラマテックNEPAと称している。
出典
諸外国の環境影響評価制度調査報告書(環境省,2004)

(下線は引用者による)

 ワシントンDCとボルチモア間の超電導リニア計画については、1月にDEIS(準備書)が公表され、5月下旬まで「関心があるかまたは影響を被る可能性のある個人、機関」による意見とか勧告が出されたのが現在の状況です。つまり、日本のように「もう決まったこと」で簡単に通るようなものじゃない。さらに、ボルチモア市は「建設しないこと」を勧告しています。ほかにも建設に否定的な意見が出ているようです。

 こういったことを日本ではほとんどマスコミは報じていません(*)。ワシントンDCとボルチモア間の計画が環境影響評価の結果ダメになったら、日本のリニア計画にとってそうとう痛手になると思います。

* 『日経』2021年2月16日の「静岡県経済」(紙面ではつまり静岡県内だけ)のページに "JR東海支援の米リニア計画 バイデン政権、追い風に 鉄道好き/公共投資重視/脱炭素 30年ごろ開業に前進" という記事が掲載されたものぐらいしか知りません。

 こういった内容は、本来は私のように知識のないものがどうのこうのいうべきことではいとは思いますが…。

 JR東海の相談役を6月に辞めた、須田寛さんは、リニアをこれだけの長距離で、かつ人口密集地帯で建設し、経営するというチャレンジはひとまず日本が先鞭をつけることになります。言い方を変えれば、世界でこれだけリニアに投資できる決断が可能なところは、これまでの段階では日本の東海道地域しかなかったともいえるでしょう(『私の鉄道人生"半世紀"』イースト新書、2019年3月20日刊、p177) といっています。さて、ワシントンDCとボルチモア間の計画はどうなるのか?