更新:2020/09/14

「龍江の盛土を考える会」の現地見学会

 飯田市龍江の清水沢にリニア新幹線の中アルプストンネルから出てくる残土を埋め立てる計画があって、地元では住民有志による「龍江の盛土を考える会」が以前から、安全性について研究・検討をしています。7月3日開かれた学習会で話題になった場所の現地見学が9月13日にありました。案内役は7月3日に講師をされた、土木の専門家の木下さん。

 計画では埋め立てる残土の量は40万立米。もともと、谷に沿って山側に入り込んでいるカーブを、谷を埋めることで短縮できたらいいなということ、また埋め立てでできた平坦な部分が何かに利用できるのではという期待をもった一部の方たちが候補地として手を挙げたようです。残土の候補地の募集のやり方は、その場所の防災上の安全性とか、権利関係なども特に考えなくとも思いついたものを出してもらえば良いというものだったので、一部の方たちが思いついたことでも候補地となる可能性はありました。

 ただ、このやり方の利点は、発案をした地元の方たちが、色々な側面、段階で、市町村や、JR東海に協力する動きをしてくれることだと思います。彼らの行動原理がどうなっているのかは別として、伊那谷でおきたリニア残土を巡る動きを見ていると、それは明らかです。

 清水沢の問題点は、残土置場より上流の流域面積が大きい(約1.3平方キロメートル)こと。つまり、谷を埋めるというよりは、川の中流を全幅にわたり埋め立てることになるという点です。下流には集落があります。また、川の護岸とか防災対策も40万立米の土砂を中流に置いた場合まで考えて造られて来たわけでないし、老朽化も進んでいる。防災の考えに逆らうような行為であって置くべきでないというのが7月3日の結論だったと思います。

○予定地は川の中流:2019年10月19日の学習会資料より
○主なものでも5つ以上の支流:2019年12月14日の学習会資料より

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見学場所

盛土計画現地(農免道路U字カーブ付近)

 最初に見たのは上の地図の「1」。カーブの様子が分かるので少し前の写真をのせました。

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撮影位置の標高494.5m

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右側の道路は上り坂になっています。右の黄色い丸の部分(「2」)からカーブの頂点を見たのが下の写真。

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「2」(撮影位置標高504.5m)下り坂です。カーブの頂点部分との標高差が約10m。盛土表面を約2%勾配とすれば、カーブの頂点(「1」)では、盛土の高さは13m程度になるでしょうか。

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「2」から谷の反対側(左岸)を見たところ。間の谷を埋めてしまえばまっすぐな道路ができるだろうという考えは、まあ分かりやすいのですが…

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(画面クリックで拡大) JR東海の説明会資料より。丸付数字・英字は引用者=撮影位置。道路はまっすぐというわけにはいかないけれどずいぶん短縮できます。

盛土計画地下流直下

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人家があります。車の止まっている場所は昔は池があって食用の鯉を飼っていて売っていたそうです。昔は生きたままの鯉を家で調理したものです。最近はほとんど食べませんが鯉のうま煮が食べたいけれど、スーパーで売ってるのは高いからというのは、移動中の車中の会話です。川は画面左側を流れています。

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説明している方の左腕の上に灰色の四角が見えると思いますが、そのあたりが盛土の最下部に設ける調整池の位置。この場所から盛土の平坦部の下流側の端(JR東海の計画図の「A」)が見えるはずとのことでした。

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盛土は一番深い(高い)ところで約35、幅が105m。

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反対側には三遠南信道路の橋梁があります。橋脚のすぐ左を川が流れています。

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計画地の斜面からは、このような湧水が何か所もあるそうで、これが盛土をするとき問題を起こすのだそうです。

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三遠南信道路の橋脚の下流には農業用水の取り入れ口があります(撮影位置「4」)。

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工事期間中に濁りとか、取水できなくなるなどの心配もあります。

調整池とはどんなものか(番入寺工業団地の調整池)

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(撮影位置(「5」) 天龍川沿いの今田地区の堤防の埋め立てに使った山砂を採った跡地が工業団地になっていて、その雨水を清水沢に流すための調整池。開発した部分では雨水はほとんどが敷地からそのまま流れ出るので、雨量が増えても一定量を下流に流すために調整池を設けます。この水も残土埋め立て予定地より上流から清水沢に流れ込みます。

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中央に水門みたいなものが見えますが、一定量を流すための仕組みなのですが、普通は水門は付けないのだそうです。ため池代わりにもなるのではという要望をいれてこういう仕組みになっているようです。魚がいました。普通は、オリフィスという施設を使います。雨量が増えて調整池の水位が上がっても、自動的に、スクリーン(網)のついた一定の断面の穴を通して一定量の水量だけを放水する仕組みになっています。だから水門(ゲート)を付けると調整ができません。手前の水路はいよいよのときオーバーフローさせるためだと思います。専門知識のあるのは、行政や業者さんなのですから、工事の同意が得やすいからではなく、周辺住民の安全を第一に考えるべきです。また住民もシビアにならないといけないと思います。スロープは貯まった土砂を浚渫するために使うそうです。

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雨が降ったり止んだりの天気でした。背後はコンクリート製品の製造工場。

盛土の表流水はどう処理するか(三遠南信道路の残土による盛土造成地)

 撮影位置は「6」。

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地理院地図

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清水沢の川の流れは盛土の上にこのような水路(開渠)を設けて処理するそうです。

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ただし、盛土は比較的平坦な部分はともかく、傾斜の急な法面ではこんなふうな急流になってしまいます。水路は階段状になっています。多量の水が流れると外側に水が飛び散るはずです。水路の先は三遠南信道路の築堤の下部の暗渠です。

 盛土の平坦部を何かに利用できるように(※)という地元の要望に、JR東海は表流水の水路を右岸側に片寄せする図面を提示してきたようです。これは安全上非常に問題があります。残土処分地として名乗りを上げようとしたのは一部の方々だと思います。その方たちの市政とのつながりが強ければ、危険であってもJR東海はそういう要望にそった図面を示す可能性もあります。

※ 多くの場合有効活用はできません。山梨県の笛吹市の中央自動車道の境川PAそばのリニア残土埋めて地ですが、有効利用ができず、ほとんどが空き地で、現在は一部をJR東海がガイドウェイ組立保管ヤードとして使っています。活用に意気込んでいた下條村の火沢だって、被害を受けても困らないような施設に活用しようと路線が少し変わったように思います。1995年に造成した道の駅は法面の一部が崩れはじめていますが補修もしていないようです。

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ガードレールの向こうに三遠南信道路。

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暗渠の位置は星印のあたり。かなり深い谷なので暗渠が詰まった場合ここはダムになりそうです。

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グーグルの航空写真。部分拡大。この盛土の調整池はどうなっているのでしょうか?

 リニアにしても三遠南信道路にしても、どうしても期待しがちなのですが、防災という面では、新たに災害の種を背負いこむことになるという側面が相当にあることは覚悟しなくてはなりません。大地の動きや自然界のエネルギーは、人の尺度とはけた外れで計り知れない部分があります。絶対に壊れない構造物があり得ない以上、個々の工事の設計の安全性についての論議より、地域の防災上、それがあった方が良いのか、ない方が良いのかをまず第一番目に考えた方が良いと思います。造って壊れたら直せばいいじゃないかでは、被害は減らせないと思います。案内役の木下さんのお話はそんな感じだったと思います。

 龍江地区のような住民の活動は、基本的に地域の防災の視点にたっています。豊丘村の小園の場合も、松川町生田の場合も同じです。こういった住民の声は、286㎞を直線で敷設しようとする、リニア中央新幹線の困難の一つだと思います。


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