更新:2024/02/04、2024/02/24 補足

山梨リニア見学センター付近の騒音

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「バンバン」走る、リニアの試験車両。実用化できているというあかしのために走行距離を稼いでいるようにも思えました。

 1月31日、「リニアから自然と人間を守る住民の会」の山梨リニア実験線の見学に同行しました。山梨リニア実験線の山梨県立リニア見学センター付近の約1.5㎞は、両端がトンネルの地上走行区間です。飯田下伊那(長野県内)でも地上走行区間、トンネルの出入口があるので、リニアの走行騒音が実際どんなものか体験したいというのが見学の目的でした。

以下、騒音の数値は、注記のないものは、市販の安価な測定機による簡易測定の数字です。周波数特性はA、FASTにセット。

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見学場所(画面クリックで拡大):右が品川方面、左が名古屋方面。トンネルとトンネルの間が約1.5㎞、防音フードのない部分が約960m。

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道の駅「つる」と実験線の小形山架橋。小形山架橋が跨いでいるのは中央高速道富士吉田線(E68)。リニアの走る姿は見えません。軌道には3.5mの防音壁が設置してあるようです。左の「止まれ」標識付近(距離約80m)で77.9dB、右、人物のいる付近(約102m)で98dB(スマホのアプリ)でした。この日は、列車(4両編成?)の走行回数が多かったようです。右の測定は、写真には写っていないですが、道の駅の建物のそばです。建物への反射もあって数値が大きかったのかと思います。測定方法としてはどうかなというものですが、そこに人がいればそんなふうな大きさで聞こえるということではその通りなんだと思います。鉄製の橋が鳴っているような音にも思えました。かなりの音量です。(地図の「A」)

参考:中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書【山梨県】 8-2-1 騒音 の 8-1-2-66(DLしたPDFで、p66。以下同じ) ~ 8-1-2-73(p73)。8-1-1-72(p72) の「03」都留市小形山(位置を示す図は 8-1-2-76、p76)では防音壁3.5m、距離50mで予測値が77dBになっていますが、「03」と場所は反対側になりますが、今回の「道の駅つる」での計測ではより遠い距離約80mで77.9dBです。「02」は東京方面の防音防災フードの入口付近です。

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都留市小形山中谷。(地図の「B」)

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見学センター付近の明り部の名古屋方面より。

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防音防災フードが設置されたリニアのガイドウエィ。この付近で、軌道から約93mで72dBでした。フードのある部分ですが、一方に防音防災フードの端があるからかも知れませんが、JR東海などが説明する64dBよりははるかに大きな音です。

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防音防災フードの左の端が見えています。左の土手の上にリニア見学センターがあります。

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このあたりは、北側には中央自動車道富士吉田線があります。リニアの騒音だけでなくて高速道路の騒音もあります。東京よりの川茂地区も高速道路とリニアに挟まれた場所です(地図の赤丸)。

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中央がリニア見学センター。左側にトンネル(防音防災フード)の入り口が見えます。見学センターの建物の右側遠方に中谷地区の家の屋根が見えています。黄色い車両は保守用の車両のようです。

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小形山架橋。右が東京方面。この明り部は約1.5㎞です。右の林のかげにも集落があります(地図の赤丸)。フードの右に見えているのは桂川をわたった向こう側の九鬼という地域です。軌道には3.5mの防音壁が設置されています。

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約80m高い場所にある展望台の登り口のフェンス。この付近で軌道までの距離が約10mで93dBでした。(地図の「C」)。白い「田の字」のパネルの下に(裏側に)2つの浮上案内用コイルと1つの推進用コイルがあります。規則正しく並んでいるので、走る列車は規則正しいデコボコ道の上を走っているようなものです。時速500㎞走行時に1秒間に約300回の振動を受けます。乗り心地を改善するうえで大きな問題となる振動の根本原因の一つです。

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ガイドウェイ建設で斜面を切土した擁壁に亀裂がありました。

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体験乗車のときの乗り場に蛇腹式の乗降装置が見えています。

 約80m高い場所にある展望台(地図の「D」)で、だいたい78~80dB程度でした。午後は見学センターを見ましたが、見学センターの2階の屋外テラスでは115dBでした(地図の「E」)。壁が測定者の背後にあるので音が大きくなっている可能性があります。ガイドウェイ脇では、騒音は90dBを軽く超えるだろうと思います。北陸新幹線の騒音について県内は開業からかなりたったのに環境基準を上回る観測点がいまでもあることを考えると、列車そのものが出す騒音、つまり防音壁などない条件で軌道脇の騒音を下げる努力が絶対に必要だと思います。約10年前の飯田市内で開かれた説明会で、列車が防音壁のようなものをしょって走れないかと質問された住民がいましたが、バカげた質問じゃなく、技術は環境の保全を内部化しなくてはならないという考え方だと思います(※)。蛇足として。トランスラピッドはガイドウェイと車体の間で空気が流れる部分を車体で囲って、外部へ開かれた部分は下方の狭い部分から地面に向かっています。リニアでは、防音壁があっても上方には騒音がそのまま出てきます(参考)。


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(トラスラピッド・インターナショナルのHPより)トランスラピッド(上海リニア)と他の鉄道との騒音の比較。Sバーン(S-Bahn,ドイツの国鉄)、ICE、TGV(フランスの高速鉄道) など他の鉄道や交通機関と比較。軌道から25mの条件で測っています。リニアをこれと同じ条件で測ってどんな数値がでるか? という問題です。(参考)

リニア見学センター

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超電導コースターの実演。超電導体がネオジウム磁石を敷き詰めたコースの上に浮いています。走行させる場合はこの写真の高さより低い位置で浮かせていました。ただし、この現象と、リニアの走行原理はまったく関係ないとのこと、そのとおりなんですが、共通点は、どちらも冷やし続けないといけないという点だそうです。えっ!この実験の意味はそれだけなの?(※)。

(2024/02/07) 実験では、コースの上を浮いて走っていた超伝導体が、温度があがってコースをはずれて、床に落ちました。本物のリニアも超電導磁石の温度が上がったりすれば、コースを外れることはないかも知れないですが、側壁に激突するのも共通ということになりますね。

(2024/02/07) この実験装置、超伝導コースターの周囲には柵があって、電子機器を柵より内側に入れないで下さいと注意していました。ネオジウム磁石の磁力によって悪影響があるそうです。リニアの超電導磁石はもっと磁力が強力なんですから、非常に問題があるはず。おそらく完全とはいえないと思いますが、実際にリニアではかなり無理な方法で対策をしています。超電導磁石を使っている病院のMRIも制限区域におかれています。そういう危険なものを136個もつけて走っているのがリニアです。

 解説をされている方に、高温超電導磁石の実用化の見通しについて質問しましたが、わからないとの答えでした。高温超伝導磁石の採用については、2023年3月に国交省の技術評価委員会が検討期間を3年延長すると発表していましたが、これについて、実用化できたと書いたニュースがいくつかありました(参考:磁気浮上の夢と現実)。

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これは、1階に展示してある高温超電導磁石の模型。解説には、現在実験線で走っている車体が高温超電導磁石を使っているとか、開業時には使うことになっているといった説明はないです。この展示も解説文も10年前と同じです。ただし、10年前には解説文の横にあった、「L0系に搭載されている超電導磁石とは異なります」という小さな説明板はなくなっていました。

 液体ヘリウムを使用している今の超電導磁石にくらべ、「高温超電導磁石は冷凍機でコイルを冷却するだけでよいため、磁石の構造を簡素にでき、信頼性向上とコスト低減がはかれ」るということは、現在のヘリウムの必要な超電導磁石はやはり信頼性の点で心配があるという意味ですね。超電導リニアで一番のカギとなる超電導磁石の技術が確立していないといえなくもない。

超電導磁石を鉄道の車輪と同じ役割で使う場合の信頼性の問題については、「山梨リニアの超伝導磁石」(外部サイト)を読んでください。

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これが超電導リニアの浮上原理を説明する模型。リニアの車体の後ろのほうにまるいものが見えています。これはオモリです。車体の横には本物では超電導磁石がある場所にネオジウム磁石があります。ネオジウム磁石では浮力が少ないので、オモリで車体部分が軽くなるようになっています。名古屋の「リニア鉄道館」のものについてオモリでバランスをとっているところがよくわかるけれど、山梨のはその辺が隠してあるみたいなことを書いたことがありますが、以前撮影した写真もよくよく見るとオモリが写っていました。

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これは、カーブを曲がれる仕組みについて解説する展示。今回、撮影し忘れたので10前の写真です。現在も同じです。画面全体を外側のハンドルで傾けると車体が左右に動いて、さらにガイドウェイの中央に戻るような動きをします。「磁気ばね」の作用だと説明しています。ばねの作用であるので、たとえば右に移動して左向きの力が働いたとしても、素直に1回でガイドウェイの中央にピタッと戻るはずはないんですが、画面では一回で中央にきちんと戻っています。実際には、中央を左に行き過ぎて右に戻るような動作を、ヤジロベイのように繰り返しながら中央に戻るはずです。これも振動の原因になります。

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保守車両。保守車両というか、これはガイドウェイの自立式側壁パネルを運んで設置するための機械かなと思います。見学センター入口付近でこの車両がエンジンを動かしていました。大型トラックより大きな車体です。これがかなり大きな音(87.7dB)で、夜間保線(保守)作業をする場合、速度が遅いので沿線の住民はかなり迷惑を受けるだろうと思います。

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名古屋方面の防音防災フードの入口。側面や上面に小さな、空気を逃がす穴があいていて、列車が突入する時の衝撃音を減らす工夫をしてあります。が、この付近で列車が名古屋方面から近づいたときに、ヒュードロドロという幽霊の効果音のドロドロという部分に似た不気味な音が聞こえました。

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10年前とモデルチェンジ。こんな風に富士山が見える場所はないと思いますが。ケネディさんが富士山が見えるとはしゃいでいたのはどこなんでしょうか。

 「リニアから自然と人間を守る住民の会」の皆さんは、口々に騒音のひどさに驚いたといっていました。

 参加者の感想です:「リニア山梨実験線騒音視察に行ってきました(1)」、「(2)」、「(3)」。

2024/02/24 参加者の感想(3)を追加しました。同じ方の書かれたものです。飯田下伊那から多くの人が満蒙開拓に行ったことと、純国策といわれるリニアへの当地方の受け入れ方のなかに似たところがあるのではないかと思っている方は、少なくないはずです。

 今回の見学は、今さらという感じといえなくもないものですが、明り区間のある座光寺地域自治会の皆さんが、2014年12月と2016年6月に実験線を視察しています。2016年と2014年のどちらも、そばを通る自動車の音などの方が大きいというような感想が書かれていますが、2016年の測定数値は、参考として書いてある「自動車の騒音 70~80デシベル」より大きいといえますね。私たちの測定では、道の駅の駐車場の「止まれ」の標識の測定箇所は道路に面しており、そばを車が通過していましたが、リニアの数字より大きな数字は示さなかったです。2016年の「小形山展望台」というのはこの場所のことですが、私たちの測定値のほうがやや少な目です。

(2024/02/24 追記)川茂地区について

 川茂地区については、一応行ってみたのですが、車を止める適当な場所が見つからなかったため、測定はできませんでしたが、こちらでも騒音はかなりひどいようです。

 リニア工事認可の取り消し訴訟で住民は法廷で、路線から100mの距離で80dB以上で、通過時には、テレビの音が聞こえず、家族の会話も途切れると述べました(ストップ・リニア!訴訟ニュース第29号)。2022年9月の東京地裁の裁判官の現地の騒音被害の視察時には、路線から75mで74~84dBが確認されました。山に反響して音がひどくなり子どもたちが勉強できない、二重サッシの窓にしても変わらないと住民は訴えました(ストップ・リニア!訴訟ニュース第28号)。

 2022年9月、JR東海は、付近の既存の橋脚の強度が足りずフードの設置はできないと説明しました。また騒音のひどい一帯の14軒に対して融雪施設をつくるので土地を譲ってほしいと説明しました。山梨県に住んでいる方がいっていましたが、山梨県内は雪の多い地方でないです。実際問題としては、騒音の対策ができないので移転してもらうということなのですが、それを表向きの理由としては、他の地域でも同様の問題が起きるはずです。つまり、超電導リニアの場合は、地上区間では、土地が直接に路線の用地でない場合も、路線の両側に数百メートルの人家については移転補償が必要なのではないか、山梨県の南アルプス市の工事差し止め訴訟の中でもこれは主張されています。

 豊丘、阿島、座光寺、飯沼、黒田で実際にどのような騒音になるのか。環境基準では住宅地の騒音は夜間45dB~昼間55dB以下であることとされます。幹線道路沿以外では伊那谷では普通の静かさです。リニアに適用される新幹線の騒音の基準は、住宅地は70dBで、商業地を含む居住地で75dBと、そもそもかなりうるさいのです。しかし、この基準が達成できないからといって罰則規定があるわけではなく、JR東海のやったもの勝ちで終わってしまう心配があります。

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