更新:2024/04/06

「一つ石がとれた」としてものこる困難

 JR東海が静岡支社で記者会見をしました。

『静岡新聞』 "リニア完成、静岡工区以外も2027年以降 JR東海初めて認める 山梨県駅完成は31年"

 JR東海は3カ所の工事の発注見通しを公表。そのうち2つは、(ア)山梨県駅 約6年8カ月(24年度工事契約・25年度着手・完了31年中)と、(イ)座光寺地区の高架橋(天竜川橋梁西側から駅東端) 約5年10か月(24年度工事契約・25年度着手・完了31年中)。

 以前長野県担当部長だった沢田尚夫常務は、川勝知事が静岡工区の工事期間について「13年」といったことについて「基本10年という話をしている。誤解している」とのべ静岡県に指摘しました。

 環境影響評価書(静岡県)の工事工程によれば、「掘削、支保工」~「路盤工」までのトンネルの工事に10年になっているのですが、「ガイドウェイ設置工」と「電気機械設備工」はトンネル工事の「10年」より1年はみ出しています(※)。つまり「基本11年」ではないか?

※ 「ガイドウェイ設置工」は工程表では8年目から始まるようになっています。この時点でもトンネルの最先端(切羽)では掘削が続いているはずです。ガイドウェイをトンネル内に設置してしまうと、掘削残土の搬出や吹付コンクリートを運ぶ車の通行ができるかどうか。また「インバート工」が4年目からになっていますが、地質に応じてその都度適宜行う工事なのになぜ4年目からになっているのか、いま見ると不思議ですね。最初の3年はなぜインバート工が不要なのか? そもそも、アセス段階の工事工程はかなりテキトーなものじゃないかと思いますね。

 掘削を始める前の工事ヤードの造成の期間が1年、2020年6月に当時の金子社長は、ガイドウェイの設置や試運転は、トンネルができてから「さらに2年必要」と説明していたので、つまり川勝知事がいっている 「 1年+10年+2年 で 13年 」は間違っていないはずです。

 さらに問題なのは掘削工事期間の「10年」。金子社長が2020年6月に川勝さんとの会談の時に「5年5カ月」といっていた部分です。その時は1月に100m掘れるとすれば5年5カ月で掘れるとしていましたが、それが10年に延びてしまっていますね。どうして?

 西俣非常口からのトンネルの掘削は斜坑3.5キロ、本坑部分が3キロ。合計6500mを10年=120カ月で掘れるかどうか。1カ月ごとコンスタントに約54m掘削すれば可能なんですが、長野工区の実績からは、たぶん1カ月約40m程度しか掘削できないでしょう。とすれば、約162カ月(162.5)=13年半かかる可能性もあるでしょう。

 もともと、難工事が予想された「南アルプストンネル」です。長野工区は静岡工区まであと3900m(2023年12月現在)。JR東海は2026年11月の掘削完了は無理と認めました。直前のペース(1カ月約54m)でも6年かかるので、工事完了時期が2030年でプラス2年なので2032年になってようやく列車が走れる状態になるはず。悪いことに県内の他の2つの非常口からの工事は、予想以上に悪い地質で工事が難航しているとJR東海は説明しています。

 さらに、南アルプストンネルと伊那山地トンネルの間を直接につなぐ小渋川橋梁。工事に7年かかる小渋川橋梁についてはまだ発注していないし、この工事の足がかりにするトンネルの一方の伊那山地トンネルの坑口に達する(約3000m)までに少なくともあと4年はかかると思われるというのは、このトンネルは現在、中央構造線部分を掘削中で、JR東海は「慎重に」掘っていると説明しています。橋梁工事の開始が2028年になれば、橋梁の完成は2035年以降になるはず。

 「2027年開業」ということは環境影響評価が済んでいない時期に発表されたものなので、もともとあてにはならない数字という指摘もあります(⇒ 「リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?」> "ルート選定にあたり国とJR東海が環境配慮を怠ったのが悪い")。

川勝氏が辞めても残る物理的な困難

 川勝氏が辞めることで「一つ石がとれた」とコメントしたのは飯田商工会議所会頭の原勉氏。まあ、たった一つ取れただけと考えた方が良い。なんといっても相手は「山の神」。南アルプスは避けた方が良いという指摘が以前からあったのですから、現在は、いわんこっちゃない状況になっているといって良いと思います。静岡県が慎重な姿勢をとって来たのが工事を遅らせているのは実際そうなんですが、JR東海の事前の調査が不十分だったこと、きちんと納得できる説明ができていないことが原因で、責任は全面的にJR東海にあるわけです。また、無理・無謀な計画を認可した国交大臣にも責任がある。

 そして、もう一つは、超電導リニアの技術そのものが、公共交通として採用するにたる安全性や信頼性を有しているかという問題があると思います。国交省は、認可にあたって、全く新しい仕組みの乗り物であるにも関わらず、時速200キロ以上で走るので新幹線であるから全幹法のみの適用で認可できるとし、鉄道事業法が取り上げている安全性とか採算性について考慮していません。安全性の問題を軽視している点は「機能性表示食品」と似てますね。どちらも安倍晋三さんの置き土産。

 超電導磁石を浮上式鉄道に利用するアイデアはもともとはアメリカの2人の超電導磁石の研究者が1966年に発表したもの。アメリカで1970年頃、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、フォード自動車が研究はしたけれど開発はしなかった。ドイツのシーメンス社(※)とテレフンケン社とスイスのブラウンボベリ社(現在はABBグループ。※)が共同で1977年ころまで研究をしてやはり開発はしなかった。日本でも日本航空は超電導方式を選択しなかった。国鉄は1970年から超電導方式の開発を始めましたが、実は、技術者の中には批判的な意見を持つ人もいたのですが、当時の開発の中心にいた人物に批判的な意見をいう技術者は排除される中で開発が続けられたという事情があるようです。

※ シーメンス社もブラウンボベリ社も鉄道車両の製造をしている。国鉄もJR東海もおそらく鉄道の技術に詳しいはずなのに超電導に拘った理由がわかりません。

 ドイツや日本航空は常電導を選択して、1990年代までには実用レベルに達して、上海(2002年・開業2004年)と名古屋(2005年)に営業線ができている。

 なぜ、国鉄-JR東海以外では開発が中止されたのか、あるいは選択されなかったのか、その理由についてマスコミが紹介してきたかどうか。別のページで細かい点は紹介していますが、数十年前に指摘された問題点はどれも解決できていないというのが現実です。

 超電導方式は数十年前に将来性を見限られた筋の良くない技術だったといえるのではないか。これも川勝さんの存在とは関係なく厳然として存在する事実だと思います。